強引専務の身代わりフィアンセ
 二日目も滞りなく、彼の婚約者としての役割を終えることができた。といっても、このあとの交流会が私にとっては本番なわけだけれど。

 午前中の展覧会は、私も一緒に参加させてもらった。世界的なアクセサリーメーカーが自身の看板を背負う渾身の商品たちを選り抜き、会場に展示されていた。

 ガラスケース越しにそれらを眺めながら私は、ひたすら感嘆のため息をもらすばかりだった。

 そこで何人か彼の知り合いの人に声をかけられたけれど、私は軽く挨拶をするだけで済んだ。どちらかといえば、皆私よりも一樹さんと仕事の話をしたがっていたから。

 社長の代理とはいえ、自分よりも立場や年齢が上の人たちとも対等に渡り合う彼の姿を見ると、一樹さんは本当にすごい人なんだと改めて思った。

 夜の交流会では、もっと多くの人と話すことになるだろうし、このエキスポの主催者であるアラータの代表にも挨拶する予定だから、失敗は許されない。

 午後のフォーラムは一樹さんひとりで参加しているので、先にホテルの部屋に戻ってきた私は休憩しながらも、支度にあたふたとしていた。

 鏡の前でドレスを合わせてみる。やっぱり私は青色のドレスの方が好みだけれど、ここでの選択は赤だ。

 情けない話だけれど、アクセサリーは一樹さんが帰ってきてから、ドレスに合うものを選んでもらうことにしる。

 さすが創設者というか、私よりも彼の方がセンスもあるし、Im.Merのアクセサリーを魅せる戦略もあるだろう。

 袖がないドレスというのはどうも緊張してしまう。こういった類のものを着たことは今までにない。髪をまとめるかどうか悩んで、思い切ってアップにすることにした。
< 100 / 175 >

この作品をシェア

pagetop