強引専務の身代わりフィアンセ
　ドレスに散りばめられたスパンコールと合わせて、パールの髪飾りを選ぶ。化粧もいつもより濃い目だ。ドレスに引けを取るわけにはいかない。最後に、用意していた黒い光沢のあるヒールを履いた。

　視界がやや高くなって、少し新鮮だった。美弥さんは私より背が高いから、彼女の視界はこんな感じなのだろう。そこで部屋のドアが開く音がしたので、私は急いでそちらに向かってしまった。

「おかえりなさい」

　息急き切った私の出迎えに、彼は目を白黒させた。

「あの、この格好で大丈夫ですか？」　

　不安から彼の反応を待たずに、確認の言葉が口を衝いて出る。すると一樹さんは、改めて視線を上下に動かしてこちらを見てきた。

「いいんじゃないか」

　その言葉にホッとして、私は自分があまりにも不躾だったことに気づいた。

「あ、帰ってきてお疲れのところ、いきなりすみません」

　急に恥ずかしくなった私は肩を縮めた。彼はネクタイを緩めながらこちらに近づいてくる。そして私の前まで来ると、髪型を崩さないように優しく頭に触れた。その顔はなぜか笑みが浮かんでいる。

「どうしました？」

「いや。そんなに俺に見せたかったのかと思って」

　私の頬は火がついたように熱くなった。まるで子どもみたいな自分の行動が恥ずかしくなる。

「確認！　確認してもらおうと思ったんです！」

　むきになって訂正してみたけれど、一樹さんはなにも言わずに私の頬に手を添えた。そっと視線を合わせられ、心が震える。彼の目はこちらの言葉を封じ込めるだけの力がある。
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