強引専務の身代わりフィアンセ
 半歩先を歩く彼を、ちらっと盗み見する。すらっとしながらも背が高く、瞳と同じ漆黒の髪が綺麗な彼は、十分にタキシードを着こなしている。

 格好に合わせて今はきちっと髪も整えているので、これはこれでなかなか新鮮だ。整った顔立ちに、くっきりとした目鼻立ち。彼はやっぱり雲の上の人だ。

「美和」

 名前を呼ばれて我に返る。いつのまにか盗み見どころか、じっくりと見つめていたらしい。その顔は、どこか呆れていた。

「見惚れてくれるのは有難いが、転んだりするなよ」

「……すみません、一樹さんが素敵だったので、つい」

 照れて否定してしまいそうになるのを我慢し、余裕をもって返した。すると彼は前を向いて続ける。

「気をつけてくれたらそれでいい。それに、ほかの男を見られるよりはよっぽどいい」

 さらっと紡がれた言葉に、体温が一気に上昇した。さっきまでの余裕なんて吹き飛び、鼓動が速くなる。

 とんでもない不意打ち具合に気持ちが揺れる。なに、私試されてるの!? どこまでが彼の本心なのか読めないけど、赤くなった顔を悟られたくなくて、彼にエスコートされながらも、私の目線はつい下を向いてしまった。

 会場となったホールに一足踏み入れると、そこはまるでどこかの国のお城の広間だった。天井には絵画が埋め込まれ、金色の細やかな彫刻が来訪者たちを出迎える。

 対する床はシンプルだが、天井から吊るされたシャンデリアの眩い光を反射させていた。大きな鏡が、奥行きの広さを感じさせ、舞踏会にでも招待されたかのようだ。中心に踊るような空間はないけれど。

 並べられた料理は和洋折衷だが、本格的な和食とイタリア料理に力を入れているのがさすがだと思った。会場を彩る花々も結婚式を彷彿とさせるほどの豪華さだ。
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