強引専務の身代わりフィアンセ
「初めまして、鈴木です。いつもお世話になっています」
マナー違反かもしれないが、基本的に苗字で済ませ、尋ねられるまで、私は自分から名前を言わないことにしている。
意外とこれで通してしまえるのだから、下手に嘘を吐くこともないので有難い。中嶋社長は驚いた顔をして私を見たあと、隣にいる一樹さんに笑いかけた。
「いやぁ、一樹くんに婚約者なんて本当にいたんだね。てっきりモテるから口先だけだと思ってたのに」
そして中嶋社長は私の方に再び顔を向けて、内緒話でもするかのように話し始める。
「こんなこと、婚約者さんの前で言うのも失礼な話なんだけどね、実はこっそり、うちの姪っ子でも、なんて前々から話してたんだよ。でも彼はいつも『残念ながら婚約者がいるので』なんて濁してたからさ。けれどそう言いながら、こういった場に連れてきてくれたこともないし、彼女の話も聞かないから、半信半疑だったんだ」
中嶋社長はどこか嬉しそうだったが、私は内心で冷や汗だった。それは紛れもない事実なのだろう。まさか代役を立てて連れてきたなど思うわけがない。
「どうしたんだい、今回は。鈴木さんも、どうして今回は一緒に来ようと?」
「それは」
疑うというより興味津々という感じで尋ねられ、なんて答えるのが正解なのか言いよどむ。そこで一樹さんが、わざとらしく私の肩を抱いた。
「僕が必死に口説き落としたんですよ。今回はどうしても譲れなかったので」
「一樹くんにも、そんな情熱的なところがあるんだね。それに鈴木さんもほだされたわけだ」
「え、ええ」
私は困ったような笑みを浮かべた。剥き出しの肩に彼の手が触れて、意識せずとも熱い。いつまで抱いたままでいるのか、ちらちらと気にしていると、そんな私たちふたりを見て中嶋社長が改めて声をあげて笑った。
マナー違反かもしれないが、基本的に苗字で済ませ、尋ねられるまで、私は自分から名前を言わないことにしている。
意外とこれで通してしまえるのだから、下手に嘘を吐くこともないので有難い。中嶋社長は驚いた顔をして私を見たあと、隣にいる一樹さんに笑いかけた。
「いやぁ、一樹くんに婚約者なんて本当にいたんだね。てっきりモテるから口先だけだと思ってたのに」
そして中嶋社長は私の方に再び顔を向けて、内緒話でもするかのように話し始める。
「こんなこと、婚約者さんの前で言うのも失礼な話なんだけどね、実はこっそり、うちの姪っ子でも、なんて前々から話してたんだよ。でも彼はいつも『残念ながら婚約者がいるので』なんて濁してたからさ。けれどそう言いながら、こういった場に連れてきてくれたこともないし、彼女の話も聞かないから、半信半疑だったんだ」
中嶋社長はどこか嬉しそうだったが、私は内心で冷や汗だった。それは紛れもない事実なのだろう。まさか代役を立てて連れてきたなど思うわけがない。
「どうしたんだい、今回は。鈴木さんも、どうして今回は一緒に来ようと?」
「それは」
疑うというより興味津々という感じで尋ねられ、なんて答えるのが正解なのか言いよどむ。そこで一樹さんが、わざとらしく私の肩を抱いた。
「僕が必死に口説き落としたんですよ。今回はどうしても譲れなかったので」
「一樹くんにも、そんな情熱的なところがあるんだね。それに鈴木さんもほだされたわけだ」
「え、ええ」
私は困ったような笑みを浮かべた。剥き出しの肩に彼の手が触れて、意識せずとも熱い。いつまで抱いたままでいるのか、ちらちらと気にしていると、そんな私たちふたりを見て中嶋社長が改めて声をあげて笑った。