強引専務の身代わりフィアンセ
「一樹さんはやっぱり、瑪瑙を見つけることができる人なんですね」

「どういう意味だ?」

「いいえ」

 彼はきっと特別な人で、そんな彼が選ぶのもきっと特別な人なんだ。私みたいに代わりがいくらでもいるような存在とは違う。悔しいとは思わない。むしろ尊敬してしまう。

「……美和はIm.Merよりティエルナの方が好きなんだろ?」

「え?」

「あら、あなた」

 突然話しかけられ、声のした方を見る。斜め前に視線を送ると、そちらには年配の老夫婦がいた。男性はタキシード、女性は着物という組み合わせで、声の主は女性のものだった。

 髪はきちっと染め上げて綺麗にまとめ上げられ、金糸や箔などを施した淡紫の上等な色留袖を身に纏っている。赤く紅が引いた唇が印象的だ。そんな彼女が不思議そうにこちらを見ている。

 一樹さんの知り合いだろうか、と思って横目で彼を見たけれど、どうやらそうでもないらしい。人違いだろうか、と思っていると彼女がおかしそうに笑った。

「間違っていたら、ごめんなさい。もしかして昨日、ホテルのエレベーターでご一緒した……」

「あ!」

 私は小さく漏らした。お互いに格好が違いすぎていたけれど、彼女は昨日、同じエレベーターに乗って、私たちに話しかけてくれたご婦人だった。彼女は声を弾ませながら続ける。

「男性の方があまりにも印象的だったから覚えていたの。まさか、こんなところでお会いできるなんて」

 やはり私と一樹さんとが一緒にいる場合、心に残るのは彼の方らしい。ご婦人が隣にいる旦那さんらしき人に、昨日エレベーターで一緒になったことを説明する。
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