強引専務の身代わりフィアンセ
「では、高瀬くん、この機会に今後ともよろしく頼むよ」

「はい。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」

「お話はまとまりました?」

 一樹さんと幸泉さんの話が終わりかけたところで、すかさず静江さんが割って入った。

「ああ、君のおかげでいい繋がりができたよ。そっちはなにを話していたんだい?」

「若いご夫婦に、夫婦円満の秘訣を。あなたがいかに私のことを好いていたかお話ししてたの」

 幸泉さんの顔色が途端に余裕がないものに変わった。

「やめてくれよ、恥ずかしい」

「事実しかお話ししてませんよ」

 静江さんは軽くかわしながらも、どこか楽しそうだ。理想的なご夫婦だと思う。短く別れを告げ合い、静江さんたちは行ってしまった。ややあって一樹さんから話を振ってくる。

「ほうっておいて悪かったな」

「いいえ。なにかお仕事に繋がりそうですか?」

「ああ。美和のおかげだよ」

「私はなにもしていませんけど?」

「美和が一緒にいなかったら、幸泉夫人が昨日話しかけてくることもなかったし、こうして同じ会場にいたとしてもお互い素通りしてただろ」

 私の成果と呼べるのかは謎だけれど、どういう形であれ、私がいて彼の役に立てたなら嬉しい。

「“婚約者”を連れてきてよかったですね」

 からかい混じりで投げかけると、彼が長い指先でそっと私の頬に触れた。
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