強引専務の身代わりフィアンセ
「そうだな、美和を必死で口説き落として連れてきたかいがあったよ」
触れられたことで、彼の言葉で、頬が朱に染まる。これは仕事でのことを指しているのに。彼にとってはシナリオ通りだ。それでも、こんなにも心が揺す振られる。
そのとき、彼の視線が遠くを見つめた。なので私も自然と、その先を追う。そこには、主催者のローランド氏がいた。
今、彼の周りに人は少なくなっていて、一樹さんに目配せされ、応えるように軽く頷いてから、私たちはローランド氏の方に足を向けた。
ローランド氏はもうすぐ七十歳だと聞いていたが、そうは思えないほど若々しく背筋もしっかりと伸びていた。明るめの金に近い茶色の髪はくせっ毛でパーマーをあてたようにうねっている。
髪と同じ顎鬚を長く伸ばして、緑色の穏やかそうな瞳は、アラータの代表という風格を持ちながらも、彼の人格の良さを表していた。
一樹さんと近づくと、ローランド氏はこちらに気づき、軽く手を上げてくれた。相手が日本人ならここで頭を下げるところだが、それをすることなく一樹さんは視線を逸らさないまま英語で話しかけ、しっかりと握手を交わす。
残念ながら、なにを会話しているのかは私の頭では理解できない。少しだけ英語はできるけれど、美弥さんは留学経験もあってきっと堪能のはずだ。私はどうやって言葉を交わせばいいのか。
すると専門的な話をするためなのか、ローランド氏のそばに控えていた日本人男性が間に入って通訳をしてくれることになった。そのタイミングを見計らって、一樹さんが私に注意を促す。
「紹介が遅れました。僕の婚約者です」
さすがにローランド氏にはフルネームを告げる。通訳の男性がワンテンポ遅れて訳すと、ローランド氏は顔を綻ばせた。そして通訳に向かってイタリア語で話す。通訳の男性も笑顔をこちらに向けてくれた。
触れられたことで、彼の言葉で、頬が朱に染まる。これは仕事でのことを指しているのに。彼にとってはシナリオ通りだ。それでも、こんなにも心が揺す振られる。
そのとき、彼の視線が遠くを見つめた。なので私も自然と、その先を追う。そこには、主催者のローランド氏がいた。
今、彼の周りに人は少なくなっていて、一樹さんに目配せされ、応えるように軽く頷いてから、私たちはローランド氏の方に足を向けた。
ローランド氏はもうすぐ七十歳だと聞いていたが、そうは思えないほど若々しく背筋もしっかりと伸びていた。明るめの金に近い茶色の髪はくせっ毛でパーマーをあてたようにうねっている。
髪と同じ顎鬚を長く伸ばして、緑色の穏やかそうな瞳は、アラータの代表という風格を持ちながらも、彼の人格の良さを表していた。
一樹さんと近づくと、ローランド氏はこちらに気づき、軽く手を上げてくれた。相手が日本人ならここで頭を下げるところだが、それをすることなく一樹さんは視線を逸らさないまま英語で話しかけ、しっかりと握手を交わす。
残念ながら、なにを会話しているのかは私の頭では理解できない。少しだけ英語はできるけれど、美弥さんは留学経験もあってきっと堪能のはずだ。私はどうやって言葉を交わせばいいのか。
すると専門的な話をするためなのか、ローランド氏のそばに控えていた日本人男性が間に入って通訳をしてくれることになった。そのタイミングを見計らって、一樹さんが私に注意を促す。
「紹介が遅れました。僕の婚約者です」
さすがにローランド氏にはフルネームを告げる。通訳の男性がワンテンポ遅れて訳すと、ローランド氏は顔を綻ばせた。そして通訳に向かってイタリア語で話す。通訳の男性も笑顔をこちらに向けてくれた。