強引専務の身代わりフィアンセ
「可愛らしいお嬢さんですね。婚約おめでとうございます。あなたの着ているドレス、とても似合ってますよ」

 どちらに向かってお礼を言えばいいのか迷ってしまったが、このドレスのメーカーはローランド氏の亡くなった叔母が立ち上げたブランドのものらしい。

 そのことでしばし通訳を挟みながら、一樹さんとローランド氏は盛り上がり、わざわざこのドレスを着た甲斐があったな、と安堵する。すべて一樹さんの目論見通りだけど。

 突然、ふたりの会話が途切れ、前触れもなく彼とローランド氏の視線がこちらに向いたので、私の心臓は跳ねた。そして男性通訳が口を開く。

「そのドレスをここに着て来てくださったお礼に、あなたにぴったりのアクセサリーを贈らせてください、とのことです」

「え!?」

 あまりの衝撃に私はつい声をあげてしまい、慌てて抑える。まさか世界的に有名なアラータの代表直々にそんなことを提案してもらえるとは。

 エキスポ参加者として、このうえない幸せだ。アラータのアクセサリーなんて、私個人ではなかなか手が出せない。それに断るなんて失礼な話だ。

 そのとき、ふと首元で揺れるネックレスを見た。今日は緑の大きなエメラルドが光っている。一樹さんがこのドレスに合わせて選んでくれたものだ。

 私は一瞬だけ目を泳がせ、一樹さんの方を見てから、ローランド氏をまっすぐに見つめた。

「ありがとうございます。すごく嬉しいお申し出、感激しました。……でも、私には彼の、Im.Merのアクセサリーがありますから。彼の生み出すアクセサリーが大好きなんです」

 一樹さんは驚いたように目を見張って、こちらを見つめている。すぐに通訳の男性がローランド氏に訳してくれるが、発言してから私は急に不安に襲われていた。
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