強引専務の身代わりフィアンセ
「え、どうされました?」

「眠い」

 三音の返事に目が点になる。どこか調子でも悪いのかと思ったら。

「早く寝てくださいよ」

「そうしたいんだが、美和が言うことをきかないから」

「私は関係ないでしょ」

 思えば、交流会の会場をあとにするときから、彼は疲れ気味だった。まだ明日もあるのに。そうしていると、彼が私を力なく抱きしめてきた。肩に乗せられた頭は、かなり重い。

 早く休ませないと、と気が逸り私は観念する。

「わかりました。一緒に寝てあげますから、とにかく、もう休んでください!」

 依頼者に対して、かなり上からの物言いだけど、そんなことを気にしている場合ではない。なんだかんだ言いながらも、私は昨日同様、彼と同じベッドで寝ることになってしまった。

 眠い、と言っていたのは嘘ではなく、一樹さんは私を自分と密着するように抱きかかえると、あっさりと意識を手放し、規則正しい寝息を立てはじめた。

 彼にとって私って婚約者というより、ペットみたいなものなのかも。腕の中で身動きせずにこっそりと思う。なんで片思いの人がいるのに、私とこんなことをするのか。

 ……代わり、だから?

 そこで、さっきから疑問に思っていたことの答えがあっさりと見つかる。彼の片思いの相手が誰なのかなんて、迷うことでもない。――美弥さんしかいない。

『心配は無用だ。彼女は俺のことを異性としてはなんとも思ってない』

『怒らないさ。彼女は俺が誰となにをしようと関係ないからな』
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