強引専務の身代わりフィアンセ
　美弥さんが一樹さんのことをどう思っているのかは、本人の口から聞いてきた。どこか投げやりな口調で。でも、彼自身が美弥さんのことをどう思っているのかということは知らないし、尋ねたこともない。

　大体、お互いにまったくその気がないなら、どうしてわざわざお金を払って、彼女の代役を立てたりしたのか。ご両親への手前？　でも、そこまで強制的な感じも受けなかった。

　それなのに、名前が一文字違い、というだけで、あまりよく思っていなかった私を指名までしてきて。そこまでして美弥さんを婚約者にしておかないとならない理由は。

『後に引けなくなった、とでも言うんでしょうかね。外堀を埋められたというか。そこまで想ってくれるなら、って私も結婚を前向きに考えられたの』

　静江さんの嬉しそうに言い放った言葉が、今はただ胸を締めつけるだけだった。一樹さんも同じなのかもしれない。

　それに私が美弥さんのことを口にしたり、彼女に似せようと髪や好みを合わせたら、彼はどことなく不機嫌で、嫌そうだった。……美弥さんとのことを意識させられるから？

　色々なことが腑に落ちて、彼の言動が納得できたところで、私の心はじゅくじゅくと痛みに侵食されていた。

　私、なんでこんなに辛いの？　目に力を入れて、泣きそうになるのを必死に堪える。

　代わりがいくらでもいるって言われて仕事を辞めたときよりも、別れた彼がほかの女性を選んで振られたときよりも、今の方がずっと痛くて苦しい。

　今回は、最初から「代わり」だってわかっていたはずなのに。婚約指輪だって、美弥さんのために用意されていたものなのに。
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