強引専務の身代わりフィアンセ
 漏れる吐息に、意識せずとも甘さが混じり、恥ずかしさもあって、私は目を開けていられなくなった。瞳を閉じながらも続けられるキスは、見えない分、彼と接するところが余計に敏感になる。

 濡れた唇の感触も、頭や頬を撫でて落ち着かせようとしてくれる手の温もりも、回された腕の逞しさも、全部に蕩けてしまいそうだ。

 そのとき、ふと唇が離れたのを感じ、私は静かに瞳を開けた。すぐそばに、なんとも色気漂う彼の顔があり、思わず息を呑む

「美和」

 切なそうな声で名前を呼ばれると、もうなにも言えない。頬に熱を感じて、伏し目がちになるとキスが再開された。

 重ねるだけではなく唇を優しく吸われたり、軽く舐めとられながら刺激され、体の奥に熱が篭っていく。

「……んっ」

 意識してか、せずかはわからないけど、彼の長い指が私の耳に触れたことで、私は反射的に肩を震わせ声をあげた。

 空気を壊してしまった、と思う間もなく、一樹さんは抱きかかえたままの私を自分の下に滑り込ませ、自分が上になるように体勢を変えた。

 彼の腕からベッドへと背中の感覚が切り替わり、それを意識するより先に唇を奪われる。口づけを交わしながら、今度はわざと彼は私の耳に指を滑らせた。 

 抗議しようにも上手く声にならず、むしろ口を開いたことで、あっさりと舌を絡めとられ、キスは深いものになっていく。

 頬や頭を時折撫でられながら、やっぱり耳に触れるのをやめてくれず、私の目尻に涙が溜まっていた。どこか性急で余裕がない口づけに、翻弄されっぱなしだ。

 合間に漏れる吐息、唾液が混ざり合う音、軋むベッド、なにもかもが羞恥心を煽り、体勢も相まって、ろくに抵抗もできずに追い立てられるような感覚に戸惑う。でも、不快じゃない。
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