強引専務の身代わりフィアンセ
 どれくらい口づけを交わしていたのか。一樹さんが名残惜しそうに私から顔を離して、唇が空気に触れた。その顔の綺麗さと纏う空気に圧倒される。

 それにしても、こういうとき、次にどういった態度をとるのが正解なのか判断できない。ただ、浅く息を繰り返しながら彼を見つめることしかできずにいると、一樹さんは私に体を預けるように覆いかぶさってきた。

 その重みに安堵する。けれど、それは長くは続かなかった。今まで感じたことがないような感触を耳に感じて、私は小さく悲鳴を上げた。

「やっ」

 舌を這わせられたのだと脳で理解するのに時間差があり、すぐに彼を押しのけようとするも、びくともしない。舌や唇を使って耳への刺激を続けられ、声が勝手に漏れる。

 一樹さんはやめてくれる気配を見せてくれず、私は生理的な涙がこぼれて、体中が震える。でも、さすがに彼の空いている手がブラウスのボタンにかけられたときは、目を見張った。

「駄目」

 口から出た拒否の言葉に彼の手が止まり、まじまじと顔を覗き込まれる。私は肩で息をしながら、懸命に声を振り絞る。

「もう駄目、です」

 強く言い直すと、一樹さんは困った笑みを浮かべ、ベッドに散った私の髪先を撫でた。

「美和があまりにも可愛い反応をしてくれるものだから」

「でも、さ、さすがにこれ以上は」

「なぜ?」

 彼の顔がわずかに歪み、決心が揺らぎそうになる。けれど私は思い切って続けた。
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