強引専務の身代わりフィアンセ
Epilog
 目が覚めると、意外にも一樹さんの方が先に起きていた。肘をベッドにつきながら、こちらを見下ろしていたので、私の意識は瞬時に覚醒する。

 けれど、すぐに体を起こせず、気だるさと甘い雰囲気に包まれたままベッドの中に、隠れるように入っていった。

「おはよう、美和」

「……おはよう、ございます」

 掠れた声で私は彼の方を見ないまま答えた。すると、彼の手が私の頭に伸びてきて、優しく触れてくれた。その感触が心地よくて、思わずうっとりする。

「体は、大丈夫か?」

 けれど続いての質問に、私は顔から火が出そうになった。言葉に詰まりながらも真面目に尋ねられたので、無視するわけにもいかない。ただ「はい」と弱々しく返事するのが精一杯だ。

 隠れたくても隠れられなくて、せめてもと思い枕に顔を埋める。昨晩の出来事を思い出すと、心臓が爆発しそうになって、恥ずかしくて泣きそうだ。



 両親への報告の電話を入れると、さすがに三日目だからか、泊まっていくということに、なんの疑いももたれなかった。

 おかげで寝支度も整え、ようやく同じベッドに入ることになったんだけれど、私は自分で彼のそばにいると決めたくせに、この状況になって緊張のしすぎで、息さえも上手くできずにいた。

 今までエキストラとして様々な依頼をこなしてきたが、そんな比ではないほどに緊張している自覚がある。

 逆に一樹さんは、あんな強引な言い方で帰るのを引きとめたくせに、私に無理をさせるようなことは一切しなかった。

 気持ちが落ち着くまで、ぎゅっと抱きしめてくれて、大きな手で頭や頬に触れながら、時折、触れるだけの口づけをくれる。
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