強引専務の身代わりフィアンセ
「こんなの、なんて言うな。俺が欲しいのは美和だけなんだから。そんな不安を抱く暇もないくらい一生かけて愛してやる。だから、覚悟をしておけ」

 一生かけなくても、今の彼の言葉だけで、ずっと抱えていたモヤモヤしたものが消えていく。でも、それは今は言わないでおこう。嬉しくて泣きそうになるのを必死に我慢して、違う本音を彼にぶつけてみる。

「……私も、一樹さんのことが欲しくなっちゃいました」

 だって愛されてみたくなったから。諦めていたものを、手を伸ばしていと彼は教えてくれたから。

「それをこの状況で言うってことは、こっちとしてはもうやめられないぞ」

 余裕のなさそうな彼の表情に見惚れながら、私は笑った。やっと立場が逆転できた。すぐにひっくり返されるのは目に見えているけど。

 「どうぞ」と声に出すのは難しくて、返事を待たずに彼に口づけられる。だから私は応えるように一樹さんの首に自分の腕を回してより密着し、彼に溺れることを選んだ。



 彼の言葉や、されたことをひとつひとつ冷静に思い返すと、どうしたってじっとしていられない。

 だからといって、いつまでもベッドの中に隠れているわけにもいかず、再度名前を呼ばれたことで、私はおずおずと枕から顔を離し、一樹さんの方を見た。

 すると、待ってました、といわんばかりに額に軽く口づけられる。その仕草だけで、苦しくなるほど胸をときめかせた。私、この人のことが好きなんだ。改めて実感して、なんだかくすぐったい気持ちになる。

 油断していると、今度は唇を重ねられた。触れるだけの啄むようなキスだけれど、幾度と繰り返されるうちに、昨晩の熱を思い起こさせていく。
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