強引専務の身代わりフィアンセ
 何世代前からか大の日本贔屓で、今回のスポンサーの件も他国で行うのにも関わらず自ら申し出たという話だ。

「アラータとうちは、創業者との関係もあって、前々から付き合いがあるんだが、今回はゲストとして呼ばれているんだ。本当は社長が夫婦で行くはずだったんだが、諸事情で行けなくなって、代わりに俺が参加することになった」

「なるほど。しかし、どうして婚約者を?」

「ひとりで行くと色々と面倒なんだ。しかも今回はただの見本市じゃない。アラータの社長が、全体的に盛り上げようと、繋がりのある企業との交流の場なども企画しているらしいし、仕事だけ顔を出して、それらの誘いを無視するわけにいかないだろ」

 言葉通り、専務は面倒くさそうに告げた。そこで、今日の女性社員の会話を思い出す。

『専務って浮いた話聞かないけど、彼女とかいるのかしら?』

『さぁ? けどああいう人は、それなりの人と結婚するんじゃない? それでもまだ独身でいて欲しいって願ってる女子が多いと思うけど』

 専務の容姿や肩書き、そこに独身とくれば、我こそは、と手を挙げる人物はきっと少なくない。本人ではなくても、業界関係者が多く集う中で、うちの娘、孫でも、などというのはお決まりのパターンだ。

 しかも相手が相手だけに、理由もなく邪険にするのも難しいのだろう。だからって婚約者の代役を用意させるほどとは。

 そういった類の発言はすべて飲み込み、私はカレンダーを確認して日程を確かめながらファイルをパラパラとめくる。思ったより時間がないのが厳しいところだが、無理な話ではない。
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