強引専務の身代わりフィアンセ
「業界のこともそれなりに知っていて、仕事の都合もこちらでつけられる。君以上の適任はいないと思うが?」

「お気遣いありがとうございます。でも、そういったことも含めての適任者を用意しますから、こちらをもう少し信用していただけませんか?」

 捲し立てるように告げると、肩が重くなるような空気が沈黙と共に事務所を包む。先に視線を外したのは専務で、目を閉じて長い息を吐いた。

「どうしてそこまで嫌がる?」

 怒っている、というより理解不能、という言い草だった。おかげで私は、自分が悪いことをしたような気持ちになってくる。なので口から出たのは、どうも言い訳めいたものだった。

「嫌がっているわけではありませんが……」

 そう。嫌とかそういう問題ではない。いくら化粧をして取り繕っても、専務の婚約者を代行するなど、どう考えても私には分不相応だ。

 うちにはもっと美人で花のあるエキストラも所属している。適材適所という言葉をこの人だって知っているだろうに。

「なら、なにが問題だ?」

 それなのに、そんなことまったく思いもしないのか、まっすぐにこちらに尋ねてくるので、私は言葉を迷ってしまった。

「……専務は、どうしてそこまで私にこだわるんですか?」

 さっきまでの仕事モードでの対等なやりとりはすっかり鳴りを潜め、私個人として専務に尋ねる。自然と声も小さく低姿勢な私を専務はじっと見つめてきた。
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