強引専務の身代わりフィアンセ
流れるような黒髪に、どこかミステリアスな雰囲気。遠目から見てもぱっと目を引く存在なのを私は十分に知っている。
彼の名は高瀬一樹(かずき)。MILDの現社長の息子であり、若くして専務という肩書きを背負っている。けれど、そのことに不満を抱く人はほとんどいないだろう。彼は「Im.Mer」を立ち上げ、成功させた張本人だ。
三十二歳と若く、それでいて独身なんだから、彼に密かに想いを寄せる女性は後を絶たない。おかげで今では社長よりも社内外共に注目されている人物だ。
そんな彼に私は勝手に後ろめたさを感じていた。専務と言葉を交わしたのは新入社員歓迎会のときに少しだけ。
だからきっと彼は私のことなんて覚えていないだろうし、気にも留めていないだろう。でも、それでいい。それでいてもらわないと困る。
専務が秘書を連れて通り過ぎたのを感じ、私はタイミングを見計らって頭を上げた。無意識に息も止めていたみたいで、肺にゆっくりと酸素を送り込む。
踵を返そうとしたところで、確かめるように専務の背中を目で追ってしまった。それがいけなかった。
なにがあったのかは知らないが、振り向いてこちらを見ていた専務とバチッと音がするほど視線が交わってしまった。漆黒の瞳に捉えられ、一瞬時が止まったような感覚に陥る。
それを急いで振り払って私はそこから駆けだした。バクバクと音を立て始める心臓を押さえながら、さっさと会社の外に出る。
落ち着け、きっと今のは偶然だ。私のことを気にしたわけじゃない。たぶん私の野暮ったさが気になっただけ。初めて話しかけられたときと同じように。
彼の名は高瀬一樹(かずき)。MILDの現社長の息子であり、若くして専務という肩書きを背負っている。けれど、そのことに不満を抱く人はほとんどいないだろう。彼は「Im.Mer」を立ち上げ、成功させた張本人だ。
三十二歳と若く、それでいて独身なんだから、彼に密かに想いを寄せる女性は後を絶たない。おかげで今では社長よりも社内外共に注目されている人物だ。
そんな彼に私は勝手に後ろめたさを感じていた。専務と言葉を交わしたのは新入社員歓迎会のときに少しだけ。
だからきっと彼は私のことなんて覚えていないだろうし、気にも留めていないだろう。でも、それでいい。それでいてもらわないと困る。
専務が秘書を連れて通り過ぎたのを感じ、私はタイミングを見計らって頭を上げた。無意識に息も止めていたみたいで、肺にゆっくりと酸素を送り込む。
踵を返そうとしたところで、確かめるように専務の背中を目で追ってしまった。それがいけなかった。
なにがあったのかは知らないが、振り向いてこちらを見ていた専務とバチッと音がするほど視線が交わってしまった。漆黒の瞳に捉えられ、一瞬時が止まったような感覚に陥る。
それを急いで振り払って私はそこから駆けだした。バクバクと音を立て始める心臓を押さえながら、さっさと会社の外に出る。
落ち着け、きっと今のは偶然だ。私のことを気にしたわけじゃない。たぶん私の野暮ったさが気になっただけ。初めて話しかけられたときと同じように。