強引専務の身代わりフィアンセ
「大丈夫ですよ。さっきの男性からもう頂いてます」

「えっ!」

「さらっとそういうことができちゃう男性ってなかなかいないですよー。素敵ですね」

 お釣りを手渡してくれる彼女に、私はもうなんて答えていいのか分からなかった。


 お風呂に入った後で、私は自室のベッドでどっと項垂れた。そして、桐生さんから貸してもらったファイルを鞄から取り出し、丁寧にめくっていく。

 改めて美弥さんの写真をじっくりと見た。桐生さんと同じで、くっきりとした目鼻立ちは意志が強そうで、それでいて上品さも兼ね備えている。正統派の美人だ。

 サラサラの髪は女の私でも思わず触ってみたくなるほどで癖っ毛な私としては本当に羨ましい。

「綺麗な人」

 思わず感嘆の声をもらす。経歴も申し分ない。有名私立の幼稚園から高校まで通い、大学も一流出だ。在籍中は外国に留学もしていたらしい。

 私とはまるで違う。彼女との共通点が同性で名前が一字違いということ以外、なにも見当たらない。

 こんな人の代わりができるのか。美弥さんは私が専務の婚約者として代役を務めることをどう思っているんだろう。

 桐生さん曰く「うちの父親が心配性で、信頼できる一樹くんならって妹との婚約を勝手に取りまとめたんだ」なんて話してたけど。

 とにかく向こうの深い事情まで汲む必要はないし、むしろあまり立ち入るのは厳禁だ。これはあくまでもビジネスだということを忘れてはいけない。

 私は気を取り直して、美弥さんの経歴や今日聞いた話などを必死に頭に叩き込んだ。
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