強引専務の身代わりフィアンセ
「どんなのを選んだのかは、当日までの楽しみにとっておく」

 不意打ちの一言に私は目を丸くした。

「あら素敵。なんだか結婚式みたいですねー」

 にこにこと女性店員は返したが、私はなにも言えない。感情がジェットコースターのように駆け巡り一点に落ち着いてくれない。なにこれ、苦しい。さっきとは違う痛みが走って顔が熱くなる。

 結局、選んだドレスたちは会場まで送ってもらえることになり、当日に着ていく分だけ持ち帰ることになった。

 店を出てエレベーターに足を進める専務にお礼を告げてから、私はしばし迷って、ふたりになったところで言葉を発する。

「さっきのドレスの件なんですが、ちゃんと美弥さんの好みに合わせて赤を選んでいますから」

 そこで専務は振り向いて私を見た。その眼差しに反射的に身を縮める。彼女の好きな色は赤だと聞いていた。渡された写真も、赤を身に着けていることが多かった。

 それを踏まえていると、安心させるために言ったのに、専務の顔はなんだか怒っているような、困っているような。元々あまり感情を顔に出さない人なので、その真意を測ることができない。

 専務は小さく息を吐くと、私から視線を逸らし、自身の腕時計を確認した。

「あの」 

「とりあえず食事にしよう。嫌いなものは?」

 たしかに、もうお昼時だ。って、そういうことではなく。

「え、いえ。そんな。お気遣いなく!」

 付き合う、というのが服を買うためだったのだとすると、これ以上は余計なことだ。そう思ったのに。
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