強引専務の身代わりフィアンセ
「そうですね。どうぞ受け取ってください」

 苦笑しながら答えると、専務も軽く笑ってくれた。

「なら、婚約者からの素直な評価として、喜んで頂戴しておくよ」

 思えばこんなふうに彼と軽口を叩きあうのは初めてかもしれない。それも私が、彼の婚約者役を務めることになったからだ。

 専務の顔を直視できず、不自然でない程度に彼から目線を外す。そこで料理が運ばれてきて、食事を楽しみながら、私はお言葉に甘えてインタビューばりに専務に色々と尋ねた。

 簡単なプロフィールからはじまり、家族構成、好きなもの、苦手なもの、学生時代のこと。きっと一社員だったら知ることができなかった。

 仕事なのに、彼のことを知れるのが、なんだか嬉しい。職権乱用かもしれないけど。専務は専務で、仕事と割り切っているからか、嫌な顔せずにひとつずつ答えてくれる。

「美和は、どうなんだ?」

「え?」

 質問が一段落ついたところで、答える側の専務が尋ねてきた。

「さっきから俺ばかり答えてるだろ」

「私は……」

 しまった、と思い自分のことを話そうとしたところで言葉を飲み込む。

「私のことはいいんです。私のことは美弥さんだと思っていただければ。あ、じゃぁ、今度は美弥さんのことを聞いてもいいですか?」

 話題を逸らすように笑顔で聞くと、専務はわずかに眉根を寄せた。

「彼女のことは、俺よりも幹弥に聞いた方がいいんじゃないか?」

「一樹さんから見た、美弥さんのことが知りたいんです」

 強い口調で押してみる。すると専務はややあって観念したように息を吐いた。
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