強引専務の身代わりフィアンセ
「たとえば?」

「そうですね、美弥さんと婚約された経緯は?」

「前にも言ったとおり、親同士が昔からの知り合いで、勝手に話を進めたんだ。どちらかといえば娘に悪い虫がつくのを嫌がった彼女の父親が希望した結果だ」

「美弥さん、美人ですしモテそうですもんね」

 うちの父親でさえ、ああなんだから、なんとなく美弥さんのお父さんの気持ちがわかる気がした。

「お互いの気持ちがどうであれ、外部からの煩わしい話を断るのには都合がいいからな。利用させてもらっている」

「美弥さんは、今回の話を知っていますか? 私が代役をして大丈夫でしょうか?」

 桐生さんに尋ねた質問を、専務本人にもぶつけてみる。

「心配は無用だ。彼女は俺のことを異性としてはなんとも思ってない」

「そう、なんですか」

 ならいい。今回のことで美弥さんと専務の間が拗れることがないなら。これ以上、ふたりの関係に首を突っ込むことはない。でも、専務は? 専務はどうなんだろう。

 「専務は美弥さんのことを、どう思っているんですか?」仕事としてなのか、個人的に気になったからか、境界線が自分の中で曖昧になる。

 だから、私はこの質問だけ、本人にぶつけることができなかった。

 牛ほほ肉を使ったパスタは絶品で、デザートのジェラートもとても美味しく、聞きたかったことも一通り尋ねられたので私は大満足だった。

 それに質問中心ではあるけれど専務と会話を交わしたことで、少しだけ打ち解けられた気がする。
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