強引専務の身代わりフィアンセ
「なかなか見つけられないものを、手に入れるのが難しいものを、ちゃんと自分のものにしてしまうのが一樹さんのすごいところなんだと思います」

 持って生まれた運の違いというか、凡人と才覚ある人の違いというか。現に彼は、瑪瑙を引き当て、それをきっかけにIm.Merというブランドも成功させている。

 もちろん運や才能以外にも並外れた努力もあるんだろうけど。

 私は穏やかに流れる川から、ゆっくりと向こう岸に視線を移した。そして川のほとりまで足を進めてみる。近くで見ると、思わず足をつけたくなってしまうような綺麗さだった。

 穏やかな流れをしばし目で追ってから、私はおもむろに口を開いた。

「昔、弟と川に遊びにきたときに、向こう岸に行こう!って計画したんです」

 前触れもなく話し始めた私を、専務が不思議そうな顔で見てくる。なので、「私が川に落ちた話ですよ」と補足した。

 ここと同じで浅瀬の小さな川だった。他にもいっぱい水遊びしている人たちはいたが、私たちは残念ながら水着や着替えなどを持ってきていなかったのだ。

 だから、そこらへんにある石を積んで、川を渡る橋を作ることにした。靴を濡らしてはいけないと思って、橋に見立てた石の上を歩いて、先頭に石を積んでは慎重に先を伸ばしていく。

 子どもながらに夢中だった。けれど積んだ石というは、どうしたって足場が悪い。川の流れで濡れているから滑りやすくもあった。
< 57 / 175 >

この作品をシェア

pagetop