強引専務の身代わりフィアンセ
「おかげで、半分くらい行ったところで、転んで川に落ちちゃったんです。怪我するし、着替えもないのに全身びしょ濡れになるし、両親には滅茶苦茶怒られるし……」
私はふうっと肩を落とした。幸い深さもなかったし、流れも緩やかだったので大事にはならなかったが、散々な思い出だ。
「そこまでして渡りたかったのか?」
呆れるか、笑うかと思ったが、専務は真面目に聞いてきた。
「そうですね。冒険心をくすぐられたというか。誰もいない向こう側がすごく魅力的に思えたのかもしれません」
あっちの岸にはなにがあるんだろう。あそこから見た景色はどんなんだろう。子どもの頃の逸る気持ちが蘇る。なんとも無謀ではあったけれど。私は川に視線を戻した。
「実際は、この中州くらいまでの距離だったんですけどね。一メートルちょっとくらいでしょうか」
当時は、果てしなく遠い気がしたのに、大人からしてみれば、すぐそこの距離だ。
「渡ってみるか?」
からかうような専務の提案に、私は目をぱちくりとさせる。しかし、すぐに笑顔を作った。
「遠慮します」
きっぱりと拒否の意を示す。もう子どもでもないし、足も濡れてしまう。あの頃は幼過ぎて、きっと渡れると信じていたけど、もうとっくに諦めた。
ただ、専務の子どもの頃の話を聞いて、なんとなく自分の話もしたくなっただけ。そして、そろそろ行きましょうか、と言おうとしたところで、突然、ありえない感覚に襲われた。
私はふうっと肩を落とした。幸い深さもなかったし、流れも緩やかだったので大事にはならなかったが、散々な思い出だ。
「そこまでして渡りたかったのか?」
呆れるか、笑うかと思ったが、専務は真面目に聞いてきた。
「そうですね。冒険心をくすぐられたというか。誰もいない向こう側がすごく魅力的に思えたのかもしれません」
あっちの岸にはなにがあるんだろう。あそこから見た景色はどんなんだろう。子どもの頃の逸る気持ちが蘇る。なんとも無謀ではあったけれど。私は川に視線を戻した。
「実際は、この中州くらいまでの距離だったんですけどね。一メートルちょっとくらいでしょうか」
当時は、果てしなく遠い気がしたのに、大人からしてみれば、すぐそこの距離だ。
「渡ってみるか?」
からかうような専務の提案に、私は目をぱちくりとさせる。しかし、すぐに笑顔を作った。
「遠慮します」
きっぱりと拒否の意を示す。もう子どもでもないし、足も濡れてしまう。あの頃は幼過ぎて、きっと渡れると信じていたけど、もうとっくに諦めた。
ただ、専務の子どもの頃の話を聞いて、なんとなく自分の話もしたくなっただけ。そして、そろそろ行きましょうか、と言おうとしたところで、突然、ありえない感覚に襲われた。