強引専務の身代わりフィアンセ
 長い脚、背が高くすらっとした体型はモデルさながらだ。着ているスーツは皺ひとつなく、彼の性格を表している気がした。

 黒く艶のある髪は滑らかそうで、こういう人間は生まれつき持っているオーラが違うのだと思う。そんな彼が、どうして私にわざわざ話しかけてくるのか。

 ただ、この会場である意味私は目立っていたのかもしれない。肩より十センチほど伸びた癖のある長い髪を後ろでひとつに束ねただけのシンプルさに、最低限の化粧と眼鏡。

 百五十六センチの身長は、女性としては高すぎず低すぎずといったところか。スタイルもごく普通。地味という形容詞がぴったりだった。

 必然的に、美人というか女性を謳歌している人が多いアクセサリーメーカーの社員としては、浮いてしまっている。それは入社してから気づいたんだけれど、私も自分のスタイルを変えなかった。

 べつに自分の容姿に引けを取ってここにいるわけでもない。今更、Im.Merのアクセサリーを新作含め、じっくりと見る必要も、悩んで選ぶ必要もなかったからだ。

 けれど、こちらの事情を彼に説明するわけにもいかない。

『正直、あまりないですけど』

『なら、なぜうちの会社に?』

 不必要に会話をしたくなくて答えたが、間髪を入れずに冷たい声で質問が被せられた。失言だったか、と思いながら、続ける言葉を頭の中で探す。

 専務にどう思われてもかまわない。自分は所詮、期限付きの契約社員だし、彼とは仕事でも関わることはない。
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