強引専務の身代わりフィアンセ
依頼者のためには全力を尽くします
 そして七月も終わりが見えてきた金曜日、専務に付き添ってエキスポに同行する日になった。

 いつもエキストラの仕事の前にはある程度の緊張感はあるものの、今回は期間が長いからか、依頼内容がイレギュラーだからか、私はいつもにも増して緊張して、早く目が覚めた。

 だからといって、ぼーっと過ごすわけにもいかない、することは山ほどある。今回のエキスポのことや、美弥さんのことを頭に叩き込んで、身支度もいつもよりずっと時間がかかってしまった。

 会社には、専務が上手く根回ししてくれたらしく、私は今日だけIm.Merの支店に人員不足で出向する、という形になっている。

 今回も専務が家まで迎えに来てくれることになっているので、私は何度も時間と携帯を確認した。そわそわと落ち着かず、必要以上に姿見で外見をチェックしたり。

 ダークブルーの落ち着いたワンピースは、Im.Merのアクセサリーたちを引き立てるのにぴったりだ。

 私は鞄から取り出したファイルをめくり、確認するかのように美弥さんの写真を見つめる。何度見ても、楽しそうに笑う彼女の笑顔は魅力的だった。

『とりあえず笑ってみてくれないか?』

 専務に言われた言葉を思い出す。彼はこんなふうに私に笑えと言うのか。無意識にため息をついてしまったが、気を取り直して、意を決し鏡に向かって渾身の笑顔を向けてみた。

 ……駄目だ、どうしても違和感が拭えない。

 すぐに笑顔が崩れる。そもそも自分の笑顔を見て、うっとりできるのは、ある種の才能がないと難しい。
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