強引専務の身代わりフィアンセ
「はい。美弥さんと同じ色に染めて、長さも合わせて切ったんです」

 昨日の仕事終わりに美容院に行って、この女性と同じような髪型で!とアイドルに憧れる女子みたいな文句を告げてこのヘアスタイルにしてもらった。

 ばっさりと長さは切ったが、むしろ軽くなってよかった。こんな明るい色にしたのも、学生のとき以来でなんだか新鮮だし。

 ただ、問題は癖のあるこの髪質で、さすがに髪への負担を考えるとストレートパーマーまでは当てられず、早起きして必死でアイロンでまっすぐにしたんだけれど。

 この髪型を見て専務はどんな反応をするだろうか、と少し楽しみだった。

「そこまで、することないだろ」

 喜んでもらおうとか、褒め言葉を期待したわけではない。だからって、そんな渋そうな顔で苦々しく言わなくてもいいのに。膨らんでいた気持ちが急速に萎む。

「でも、女性の印象って髪型が大きく影響しますし、うちの会社の関係者に会う可能性だってないわけでもないですから……。あ、ちなみに、髪型を変えるくらいなんでもありませんよ。仕事ですし」

 もしかして、自分のせいで髪形を変えさせた、と余計な気を遣わせてしまったのだろうか。そんな考えに至って慌ててフォローしてみるものの、専務の表情は崩れないままだった。

 そのままふいっと顔を逸らされ、今日からのことについて説明を始めたので、私も頭を切り替える。

 どうしても、出たとこ勝負なところが多いのが否めないが、エキストラとはそもそもこういう仕事だ。確認を終えたところで、専務が後部座席から重みのありそうな黒の箱を前に持ってきた。

 Im.Merのロゴ入りなので、中身はすぐに見当がつく。
< 65 / 175 >

この作品をシェア

pagetop