強引専務の身代わりフィアンセ
「わぁ」

 専務が箱を開けたところで、私はつい感嘆の声をあげてしまったが、すぐに平静を取り戻した。中にはIm.Merのアクセサリーが整頓して並び、それぞれの輝きを放っていた。

 専務が持っていたのは、商談などでアクセサリーなどを持ち運びするためのジュエリーケースだった。無表情を保ちながら、心が躍ってしょうがない。

 私の持っているものとは数も品も全然違う。相変わらず色とりどりの宝石たちが目で楽しませてくれる。

「ピアスは空けてないんだろ」

 確認するように言われて、私は急いで頷いた。専務はてきぱきと箱の中身から、これをつけるように、と指示してくる。ネックレス、イヤリング、ブレスレット。まるでモデルにでもなったかのような気分だ。

 専務直々に選んでもらえるのは、なんとも贅沢な立場でもある。服とのバランスを見ながら、絶妙な組み合わせはきっと私にはできない。

 なによりIm.Merの商品を扱う専務の顔は真剣そのもので、その表情に思わず息を呑んでしまう。

 無事につけ終えたところで専務に尋ねた。

「これ、いくらくらいですか?……なんて下世話なこと聞いてもいいですか?」

「聞いても普通にしてくれるなら答えるが」

「やっぱり知らなくていいので、言わないでください」

 想像するのも恐ろしくなり私はかぶりを振った。すると、わずかに専務が笑ってくれた、気がする。

「それから、これを」

 まだあるの!?と突っ込みたくなったが、専務が今度差し出してきたのは、小さな箱だった。
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