強引専務の身代わりフィアンセ
 今日は、アラータをはじめとする世界的有名企業の幹部たちによる講演会や、業界の動向などを巡って意見を交わすワークショップが行われ、私は専務と共にそれらの聞き役として参加した。

 真面目に聞く必要はないのかもしれないけど、勉強にもなるしと、つい聞き入ってしまう。話についていけないことも多々あったけれど、全体的に私も楽しむことができた。

 隣に座る専務はいつも通り涼しげだ。きっと私以上に内容をきちんと理解しているのに違いない。

 おかげで一通り終わった頃には、私の頭はショートしそうだった。情報の波が頭の中で寄せては引いてを繰り返している。

 参加者の多くが外国からということへの配慮か、初日は思ったよりも早くに切り上げることになった。懇親会は明日の夜にホテルの大広間で予定されているので、まずはそれが私にとっての大一番だ。

 頃合いを見測り、私たちはホテルに向かうことになった。

「疲れたか?」

 エレベーターに乗り込んだところで専務に声をかけられる。

「大丈夫ですよ。むしろ気持ちが昂っちゃって。本場の空気ってすごいですね」

 疲れてない、と言えば嘘になるかもしれないけど、それでも自分が今参加しているのは、アクセサリーやジュエリーの世界規模の見本市なんだということがひしひしと伝わってきて、私は興奮気味に専務に返した。

 それなのに専務はどこか呆れた顔で、私の前髪に軽く触れた。

「今からそんな調子だと、あてられて熱を出しそうだな」

「そんな子どもじゃありませんよ」

 ぷいっとわざとらしくむくれてみる。なにげなく触れられた指の感触を変に意識してしまいながら、彼の婚約者として不自然ではないように心がける。
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