強引専務の身代わりフィアンセ
 クローゼットのスライドドアを閉めて、一度リビングに戻り、さらに奥の部屋に足を運ぶ。そこは寝室になっていて、大きなベッドが存在感を放っていた。

 子どもの頃、絵本の中で見た王様のベッドみたいだ。圧倒されながらも、ここは専務に使ってもらうので、早々に退散することにする。

 ドアノブに手をかけ、寝室の隣の部屋を覗く。そこは書斎のようになっていて、アームチェアやソファなどがベージュ系統でまとめられ、ほかの部屋からするとこじんまりとした印象だが、逆にそれが気持ちを落ち着かせた。

 それらを確認し終え、私は専務のいるリビングに戻った。彼は荷物の確認が終わったのか、なにやら書類を読んでいるところだった。そして、私よりも先に専務が口を開く。

「飯はどうする? ホテル内のレストランでもかまわないし、部屋で取ることもできるが」

「私は、どちらでもかまいませんよ。一樹さんのいい方にしてくださいね」

 笑顔で返すと、専務はしばし迷う素振りを見せた。ややあって、部屋で取ることにしよう、と提案され素直に従う。

 長丁場になるのだから、初日から無理することはないし、私も正直、ほかの人の目があるよりも、気持ちは楽だ。

 時間を指定して、サービスワゴンで運ばれてき料理は、レストランのコース料理となんら遜色なかった。運んできたスタッフも一流なのが雰囲気で伝わってくる。

 グラスにワインを注いでもらい、軽く乾杯したところで私から専務に声をかけた。
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