強引専務の身代わりフィアンセ
「お疲れさまでした。今日はあまり婚約者として役に立てずにすみません」

「十分だ。今日はこんなところだろう。知っている顔が何人かいて、美和のことを気にしていたから、明日の交流会で色々と話しかけられると思う。基本的に俺が紹介するから」

「はい。どうぞよろしくお願いします」

 下手なことを私から話してボロが出るより、専務から紹介してもらった方がいいだろう。身を引き締めながら、ナイフとフォークを動かす。

 その流れで、確認を含め明日の打ち合わせをしてから、専務が改まった様子で突然聞いてきた。

「美和はどうしてこの仕事をしてるんだ?」

「どうしました?」

 あまりにも突拍子もない発言で私はつい質問に質問で返してしまう。

「婚約者としては聞いておこうかと」

「ありがとうございます。あ、そう言えば美弥さんがお勤めの会社について聞きたいことがあったんですけど……」

 なんでもないかのように私は笑顔で話題を変えた。表情とは裏腹に、胸の中に動揺が広がっていく。

 気を遣って質問してくれただけなのかもしれないのに、わざとらしかっただろうか。けれど必要以上に依頼人に自分の個人情報を教えることは推奨されていないし。

 大体、両親のことを考えれば、私がこの仕事をしているのは、なんら不自然ではない。ただ、そこに複雑な事情を私が勝手に抱いているだけで、それを専務には知られたくない。

 専務のどこか不満そうな顔を直視できないまま、ぐるぐるとした思考を振り切るように、私はそのあとも、美弥さんの話題を口にした。
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