強引専務の身代わりフィアンセ
「どれくらい弱いのか興味がある」

 言い終わるのと同時に甘噛みされ、私は叫んでしまった。抵抗しようにも、右手は専務に取られたままで離してもらえない。

 ゆるゆると指や唇で優しく刺激され、視界が涙で滲んでいく。強引なくせに乱暴さはなくて、切なさで胸が詰まる。

 嫌だと言う自分の声さえも甘ったるくて、ベッドの軋む音が、なんだか違ことを想像させて、さらに羞恥心で苦しくなる。

 心臓が激しく脈打ち、与えられる刺激に背中が勝手に粟立っていく。これは絶対に面白がってるに違いない。

 私はぎゅっと唇を噛みしめて意を決した。

「寝ます、ここで一緒に寝ます、から」

 専務がわずかに私から距離を取り、密着していた部分に空気が流れ、そのことに安心したような、寂しいような複雑な気持ちになった。耳がじんじんと痺れるように熱い。

「本当に弱いんだな」

「そう、言ったじゃないですか」

 嘘をつく必要なんてどこにあるのか。肩で息をしながら切れ切れに答えると、専務は私の頭を優しく撫でて、目尻に溜まった涙を拭うかのように口づけてくれた。

「少しいじめすぎたな」

「まったくです。一樹さんがこんなに意地悪な人とは知りませんでした」

 苦笑する専務を、私は悔しくなって睨みつけた。
< 93 / 175 >

この作品をシェア

pagetop