強引専務の身代わりフィアンセ
契約の線引きの曖昧さに困惑しています
 自然と目が開いて意識がクリアになる。まだ部屋の中は暗いけど、もう朝だろうか。そこで私は勢いよく体を起こした。瞬時に状況を理解し、動揺のあまり口元を手で覆う。

 すぐ隣には彼が規則正しい寝息を立てて、静かに眠っていた。

 こ、これは間違いではないよね。一緒のベッドで寝たけれど、それ以上はなにもなかったわけだし。キスだってしてないし。

 誰に言い訳するでもなく私は渦巻く心を鎮めようと必死になる。そばで眠っている一樹さんの寝顔に一度視線をやると、その顔にはあどけなさが残っている。

 いつもの冷厳さなんて微塵もなくて、つい笑みが零れてしまう。そして、無造作に散っている彼の髪に無意識に手を伸ばそうとした。

 それをすんでのところで止める。なんだか触れてはいけない気がして。軽く息を吐いて、私は彼を起こさないようにそっとベッドから下りた。



「一樹さん、起きてください」

 身支度を整えた私は、彼を起こすためにベッドを覗き込んで声をかける。彼は、これでもかというくらい眉間に皺を寄せて、その瞳をうっすらと開けた。

「おはようございます、もう朝ですよ」

「ああ」

 寝起き特有の掠れた声に、ドキッとする。けれど身を起こさない彼のことが心配になり、私は少しだけ距離を詰めた。

「大丈夫ですか?」

「今、何時だ?」

「もうすぐ七時ですよ」

 端的な質問に答えると、彼はゆっくりと上半身を起こして、深く息を吐いた。そこでようやくこちらに顔を向けた。
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