強引専務の身代わりフィアンセ
「……美和?」

 不思議そうな顔をする彼に私は苦笑する。どうやらまだ寝ぼけているらしい。

「そうですよ。美弥さんじゃなくて残念ですが。今日の午前中は展覧会に参加して、午後は一樹さんはフォーラムに出席予定でしょ? 遅れちゃいますよ」

 それだけ言い残して私は部屋をあとにした。朝食もルームサービスを頼んでいるので、その対応もしなくては。

 本当はホテルの朝食ブッフェも気になっていたんだけど、なんとなく一樹さんが、朝はルームサービスを選択したのが理解できた。

 朝食をとる段になって身支度を終えた一樹さんは、どうも気まずそうだ。

「目は覚めました?」

 からかうような口調で告げると、彼は渋い顔になる。

「朝は弱いんだ」

「意外です。一樹さんってあまり寝なくても平気そうなのに」

「寝ないと駄目なんだ」

 真面目な返答に私は思わず笑ってしまった。それに対し、彼はじっとこちらを見てきたので、慌てて顔を引き締める。

「笑うことか?」

「す、すみません」

「謝らなくていい。気になったから聞いただけだ」

 あまり感情の込められていない言い方に、私は身の振り方を迷った。けれど、何度か目を瞬かせながら、正直に答えることにする。
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