王太子様の策略に、まんまと嵌められまして~一夜の過ち、一生の縁~
王太子様は玉座の前に立つと、ゆっくりと会場内を見渡した。
まるで、ひとりひとりを見定めるように、ゆっくりと。
しかし私は後ろのほうにいて、王太子様の顔がハッキリと見えるような場所にはいない。
いくら一段高い場所にいるとはいえ、これだけの人。
他の人に重なって見えないか、見えていたとしても私と同じような状況でしか見えていないだろう。
――と、王太子様のいる方へ、顔を上げてしまったのが間違いだった。
その瞬間、遠いながらも視線が交わったように感じた。
途端、私のいる方向へ顔を向けたまま、王太子様の動きが止まる。
そして、無表情だったその顔が緩んだように見えた。
ドキリと大きく胸が跳ねる。
思わず目線を下に向けた。
ちょ……。
……ちょっと待って?
王太子様……、もしかして、私を見ている?
い、いやいや、そんな。
あり得ない。
気のせいよね?
こんな大人数の中で、見つけられるわけがないもの。
ましてやこの格好では……。
そんな思いをよそに、突然ざわり、と周りが慌ただしくなった。
どうやら王太子様がこの人ごみの中へと分け入ったようだ。
そのざわめきが、どんどんと近づく。
不安と緊張が大きくなっていく。
血の気が引いたように、手足の指先が冷たくなる感覚。
小刻みに身体が震え始めた。
それでも否定したい自分がそこにはいた。
……違う。
違うわよね?
そんなはずないわよね?
自分でも驚くぐらい変わった姿に、そんな遠くから目が合っただけで気づくはずない!
だってアマンダが一生懸命やってくれたんだもの!
お墨付きを貰えるくらい変わった姿で、ちょっと見たくらいでは私なんて分かるはずが……!!
分かる、はずが……。
やがて、その足取りは止まった。
――私の目の前で。