王太子様の策略に、まんまと嵌められまして~一夜の過ち、一生の縁~
ごくりと息を呑んだ。
周りからは、なにやら悲鳴のような甲高い声が聞こえている。
けれどそのときの私の耳には、なにも入ってこない。
下に向けられていた視線を、恐る恐る上げる。
本当は上げたくはなかった。
でもなにかに導かれるように、上げざるを得なかった。
……そこには、やはりあのときの姿のままの王太子様が立っていた。
藍色の生地に、金糸で薔薇の刺繍がされたグラン・トゥニュに、白のキュロット。
そして、黒革のロング―ブーツ。
遠くからではぼやけていた薔薇の刺繍が、今はハッキリと見える。
ああ、あのときに見た柄だ。
綺麗な薔薇だわ……。
なんて変に冷静に思えたのは、その状況を理解できなかったからゆえのもの。
間近で視線が合い、王太子様はさらに顔を緩ませる。
――そして、私にこう言ったのだった。
「ようやく会えましたね、騒然たる場所の隅に咲く和みの花、ビアンカ・ウィスト・キャロライン嬢。――私の未来の花嫁よ」