王太子様の策略に、まんまと嵌められまして~一夜の過ち、一生の縁~
「――まるで騒然たる場所の隅に咲く、和みの花のようですね。……ご一緒してもよろしいですか?」
背後から唐突に声が聞こえ、咀嚼の動きがピタリと止まる。
なに?最初のポエムみたいなの。
和みの花?
まさか私のこと……じゃないよね。
しかし口の中に入ったままで振り向くのはマナーに反すると、そのままゴクリと口の中のものを体内へ流し込んで、ゆっくりと振り向いた。
そこに立っていたのは、紛れもなくこの国の第一王子、ファリス・リューイ・ヴィルヘルム様であった。
遠くから見てたことはあって王子の姿は知っていたものの、声までは聞いたことがなく、まったく気づきもしなかった。
その姿にドキリと胸が大きく跳ねる。
藍色の生地に、金糸で薔薇の刺繍がされたグラン・トゥニュ(正装)、白のキュロットに黒革のロング―ブーツを履き、その姿は遠くで見るよりも威厳と品格に満ち溢れていた。
普段は前に流すブロンズの髪も、今日ばかりは後ろに流し、だからなのか目鼻立ちのハッキリとした美しく凛々しい顔が、私の瞳に映る。
私の心臓は早鐘を打ち鳴らし、それが止むことはない。
慌てて手に持っていた取り皿とフォークをテーブルに置く。
そしてドレスの裾を持ち、腰を深くおろした。
「こ、これはヴィルヘルム王太子様!気づかずにご無礼を……!」
「いいのですよ、ご令嬢。私もちょうど休憩しようと思っていたのです。どうでしょう?共に」