王太子様の策略に、まんまと嵌められまして~一夜の過ち、一生の縁~
恋に落ちたって。
愛しているって。
私のどこに、そんな思いを抱ける要素があるというの。
社交場でも、人と踊るわけでもなく、ただ豪華な料理を味わっていただけ。
しかも無我夢中で食べていたから、お淑やかさの欠片なんてなかっただろう。
ドレスも化粧も、普段は周りの令嬢たちに比べたら地味なものだし。
魅力なんて、どこにもないはずだ。
ましてや私は男爵の娘で、身分からして王太子様の横に立てる資格はない。
仮に王太子様の言葉を受け入れたところで、この先私に待つものは、想像もつかない修羅だろう。
それを考えれば、到底その言葉を受け入れることなんてできない。
「申し訳ありません。私にはヴィルヘルム王太子様の思いを受け入れるだけの身分も覚悟もございません。どうかもう一度、冷静になって考え直して下さいませ。王太子様は、未だあの夜の魔術が解けていないだけだと思いますわ」
私の言葉に、王太子様は口づけていた手をゆっくりと離した。
そして、私の瞳を見つめる。
そこにあった表情は、先ほどのような柔らかなものではない。
冷ややかな視線に、背筋がゾッとなる。