王太子様の策略に、まんまと嵌められまして~一夜の過ち、一生の縁~
記憶はなくとも身体は覚えているのだろうか。
自分の意思と反して、その口づけが嫌ではないと感じてしまうのだから、自分自身が怖くなる。
たまらず離れてもらおうと、必死に声を絞り出す。
「お止めくださいっ!ヴィルヘルム王太子様っ……!」
「ファリス、と呼びなさい。でなければ、このままあなたを隅々まで味わうことになる」
「っ……!」
王太子様の名を呼ぶことに躊躇う。
王族の人間を名前で気軽に呼べるものは、身内かごく親しい身分の高い者だけに限られている。
その名を呼んでしまったら、私は後に戻れなくなってしまう。
でもこのままだと、あの夜と同じことになってしまうじゃないか。
しかも私の記憶がある状態で。
どうすればいい?
どちらもせずに上手く離れられる方法は……!
などと考えている間にも、王太子様の口づけは止まず、首筋から髪の毛、そして耳の辺りへと侵食を始めていた。
口づけが落とされるたび、自分の力が抜けていくのがわかる。
力を入れようにも入れられない。
頭では必死に冷静さを保とうとしているのに、身体が言うことをきいてくれない。
次第に頭がぼおっとしていく。
……ああ、どうしよう。
なんとかしなきゃと思うのに。
もうなにも考えられなくなって……。