王太子様の策略に、まんまと嵌められまして~一夜の過ち、一生の縁~
王太子様は頭を上げるようにと促し、その通りに顔を上げると、目の前にお酒の入ったグラスを差し出し、もう一方の手でグラスを持ちながら優しく微笑んでいる。
その表情に心なしかホッと緩み、差し出されたグラスを手に取った。
「あ、ありがとうございます。とても……光栄です」
「では、この出会いに乾杯」
グラスが重なった音が、部屋に響く。
私は緊張しながら、口へと運んだ。
今までに飲んだことのない、甘くそれでいて芳醇な香りの広がるお酒。
とても飲みやすくて、スッと身体に流れていって消えていくよう。
「……なんてことでしょう!こんなに美味しいの、生まれて初めて飲んだわ!」
つい、そんな声を上げてしまった。
王太子様は唇を緩ませて笑う。
「ああ、なんて可愛いお人なのでしょうね。まだまだありますよ、たくさん飲んで」
「良いのですか?では遠慮なく……!」
王太子様は給仕にお代わりを頼んだ。
部屋の中は、給仕以外、私と王子のふたりしかいない。
相変わらず部屋の外では、ゆったりとした音楽が聞こえている。
それを背に、私は特別な時間を過ごしていた。
お酒の力なのか、やけに饒舌に王太子様と会話を交わしたような気がする。
……気がするというのは、正直そこからの記憶が曖昧で。
ただとても楽しかったということと、途中から自分のものではない温かいなにかに包まれ、やたらと心地良く感じていて、まるで雲の上に漂っているような感覚だったということだけは、覚えている。
――それがまさか、現実に引き戻れたとき、こんなことになっていようとは。