王太子様の策略に、まんまと嵌められまして~一夜の過ち、一生の縁~
予め部屋に用意されていた、淡いグラデーションのかかったグリーンのドレスを着ると、使いの者が呼びに来るまで、部屋で待機していた。
その時間をただぼおっとするのは忍びないと、改めて部屋を見渡す。
それまで色々とあり、ちゃんと見られていなかったが、私のために用意された部屋は、申し訳なく思うほど、内装も家具もしっかりと誂えられていた。
ほんのりとクリームがかった壁に朱色のふわりとした絨毯。座り心地の良さそうなソファーと薔薇の彫刻がふちに施されたテーブル。
壁側に備え付けられていたチェストやドレッサーは、木材本来の色で飾り気もなく地味なものに見えるが、木彫の柄を合わせて繋ぎ合わせていたり、力をかけずともすんなり引き出しを開けることができたりと、丁寧に作られていることがわかる。
そして部屋の奥には、湯浴みのできる水回り関係の部屋。
浴槽は足が伸ばせるくらいに広い。
自身が住んでいた屋敷の部屋は、今の部屋の半分もないくらい狭く、ベッドだってそれほど寝心地がいいわけでもないし、家具だって最低限のものしか置かれていない。
自室に浴槽などもってのほか。
共有の場所が一階にあって、湯を張ってから順に間を置かずに入らなければ、冷たい水を浴びないといけない仕様になっている。
本来なら屋敷の主人、そして家族と、好きなときに入れるようにするべきなのだろうが、なにせ使用人が最低限の人数しかおらず、そこまで手が回らなかった。
かといって、父は『その時間に入られないお前が悪い』という考えであったため、少しでも遅く屋敷に帰るときは、身体を震わせながら、湯浴みならぬ水浴びをしていたものである。
それに比べてここでは、入りたいときにいつでも温かい湯に浸かることができる。
ただ準備に時間がかかるため、前もって入りたいと伝えなければいけないが。
それでも冷たい水に浸かるよりは、何万倍もマシだろう。
それくらいこの用意された部屋は、ベッドの天蓋の絵を除けば、不満を持つなど考えられないほどに充実していた。