王太子様の策略に、まんまと嵌められまして~一夜の過ち、一生の縁~
長い廊下を歩き階段を下りると、見慣れたエントランスに着く。
午後、あれだけ人がいて賑わっていた城内も、今は見張りの騎士と城内を行き来する使用人の姿しか見当たらない。
そこから、普段は許された人間と、城内で働く者しか立ち入ることを許されない区域へと入る。
ファリス様は、いつも行き来しているからかなんとも思わないだろうが、さすがに私はその場所へ一歩足を踏み入れる瞬間、とても緊張してゴクリと息を呑んだ。
そこは特別変わった光景ではなく、長い廊下と部屋の扉が左右綺麗に並んでいるものだったが、なんというか、私がこの場所へ許された人間になってしまったのだと、改めて思い知らされたからだと思う。
ある程度進んだところで、騎士の立つ扉の前で立ち止まる。
騎士はファリス様に一礼をすると、その扉をゆっくりと開けた。
途端、お腹の虫を刺激するようないい香りが、鼻を通る。
向かい合わせで、それぞれ椅子が三脚ずつの、それほど大きくはないテーブル。
そこにひしめくように、料理が置かれていた。
天に向かうように白く消えていく湯気。
焼きたての肉はてかてかと輝き、色鮮やかに盛り飾られた新鮮な野菜。
見るからに甘く滴る蜜を持った果物たち。
たまらず、ぐうう、とお腹が鳴ってしまう。
こればかりは私でもどうしようもなく、隣のファリス様に音を聞かれてしまった。
恥ずかしさで一気に顔が赤くなり、思わず俯いてしまった。