王太子様の策略に、まんまと嵌められまして~一夜の過ち、一生の縁~
たまらず部屋を出る。
背から私の名を呼ぶ声が聞こえたが、振り返ることができずに、ただひたすらに走った。
どこを走っているんだろう。
城の中は広い。逃げる場所なんてない。
目的もなく長い廊下をただ走る。
すれ違う侍従や騎士たちは、みな驚いた表情をしていた。
でも追いかける者も、声をかける者もいなかった。
それはたぶん、私が知らぬ間に涙を流していたからだろう。
なぜ泣いているのだろう。
自分自身でもよく分からない。
でも、ファリス様のあの表情を見たら苦しくて。
なぜあんなことを言ってしまったのだろうと後悔ばかりが襲っていた。
そのとき、どん、と誰かの身体に私の肩が当たる。
俯いていたため、向かいから人が来ていたのに気づかなかった。
「っと、大丈夫?」
涙でぬれた顔を上げる。
そこには淡い緑のドレスを纏う女性が立っていた。
その顔にハッと気づく。
このお方は、まさか……。