王太子様の策略に、まんまと嵌められまして~一夜の過ち、一生の縁~
「それにね、好きになるのに早い遅いはないのよ。ファリスはきっとあなたの姿を見たとき、一瞬で恋に落ちたのだと思うわ。人を好きになるきっかけって、ほんのささいな出来事でだったりするのよね。……まあ、逆に長く一緒にいても好きにならないこともあるけれど」
「私は、好きになれるでしょうか?……ファリス様のこと」
「それは私にも分からないわ。分かるのは自分自身だけよ。でも好きになったとき、相手のことを大切にしたいと思うようになるし、相手を無意識に求めるようになるわ。そしていつの間にか隣にいるのが普通になるし、いないと寂しいと思うようになる。もし、少しでもそんな感情がビアンカの中に生まれていたとしたら、……それはもしかしたら、あなたもファリスのことを好きになり始めているのかもしれないわね」
相手を大切にしたい、……か。
今まで自分のことで精いっぱいで、ファリス様のことを考える余裕なんてなかった。
ちゃんと向き合わないまま、先のことを心配するだけだった。
原因は気持ちよりも前に、身体を重ねてしまったこと。
自分の中には、身体の関係があった以上、相手の願いを受け入れなければいけないと、ファリス様に見つけられてしまったときに、諦めてしまっていたから。
……でも、結局はその出会いはきっかけにしか過ぎなくて、大切なのはそれからファリス様と一緒にいて、自分の気持ちがどう変わったのか、ということ。
そこを考えようともせず、ただ不安だけを抱えたまま生活していた。
……向き合わなきゃ、ファリス様と。
前を向いて歩くためにも。