獣は少女を愛し、少女は獣を愛した
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「...誰だお前は」
少女を見つめ、僕は言う。
「...ん、ごめんなさい、私目が見えないの。ここはどこ?」
僕の声で起きたらしい少女は、むくりと起き上がりそう尋ねた。
「ここは...森だ」
「あら、森?どこの森かしら...?
そう言えばだけど、あなたは人間?」
目を閉じたまま考えるポーズをとる少女。
「いいや、違う。
獣だ」
醜い、半獣だ。
──半獣。
半獣分、半分人間の見た目で、竜の中で最も醜いと言われている。
完全な竜にも、完全な人間にもなれない、落ちこぼれ。
「獣?そう...獣なのね...。
それにしても、獣なのに私の言葉がわかるの?」
質問の多い少女だ。そう思いながらも、僕はしっかりと答える。
久しぶりに誰かと話すことが、楽しくなってきたのかもしれない。
「あぁ、人間とは話せるようになっている。」
「すごいわね。私よりもずうっと優秀だわ。
...私もそのくらい優秀だったら捨てられたりしなかったのに。」
そう言った少女の表情が、やけに鬱げで、僕は少し慌てた。
「獣の...いや、僕の周りはみんな理解できる。僕だけが特別とかじゃない。」
「そうなの...。みんな優秀なのね」
本当に違うのだ。どんな人間の言葉だって理解できるのだ。
食べることや寝ることと同じように、僕ら獣にとって、それは当たり前のことだった。
「だから違っ...」
「そうそう、あなた、私を養うことは出来る?」
鬱げな表情から一変。パンッと手を打った少女は変なことを言った。
「は?」
僕は思わず聞き返す。
「私、捨てられちゃったみたいなの
この通り幼いし目も見えないから働くことが出来なくて...」
たしかに、そう言う少女は幼かった。
大体...人間の年齢だと10くらいだろうか。
「いいよ」
いつの間にか僕は、少女と話すことが楽しくなっていたらしい。
すぐに了承した。
「本当!?」
僕の返事を聞いた少女は、明るい表情をして聞き返す。
「うん、僕と一緒に暮らそう」
「えぇ!ありがとう!」
僕がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。
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