獣は少女を愛し、少女は獣を愛した
少女は、名を ミユ と言った。
少女の親は 心 に 優しい でミユと名付けたそうだ。
なぜ一つの言葉に二つの意味が存在するのか、僕は未だ理解できない。ミユはミユじゃないのか。それ以外に何かあるのか。
少女は東洋の国で生まれたと言っていた。
そこでは、漢字というものに思いを込めて名前を付けるのだそうだ。
「グラン、これは触ってもいいもの?」
少女が僕の方を振り返り聞いてくる。
「あぁ、いいぞ」
僕はミユが指さす方を見て、判断して了承する。
「何かしら...」
そう言って少女は優しく触れ始める。
少女は目が見えない。
幼少期に何かがあったらしいが、この森に来るまでの記憶がほとんど無い。
残っていた記憶は、自分の名と、少しの知識、そして自分が捨てられたという認識だけだった。
「わかったわ!これは花ね!名前は思い出せないけれど、昔図鑑で見たことがあるわ!」
触り始めてしばらくして、何かがわかったようだった。
こういう時の少女の笑顔はとても輝いている。
「図鑑...?」
「図鑑というのは、人間界で使われているもので、同じ種類のものの違いやそれぞれの特徴をわかりやすく、詳しく教えてくれるものよ!
これを見たのは、確か植物図鑑だったわ!」
「ふぅん...
確かにそれは花だよ。僕は名前とか知らないけど...。残念ながらそれは食べれない。」
「そう...せっかく見つけたのに残念ね...。
バイバイ、また会いましょう、可愛いお花たち」
そう言って少女は優しく触っていた花から手を離す。