獣は少女を愛し、少女は獣を愛した
「2人で話したいことがあるんでしょう?
私はグランの目が届く範囲で聞こえなさそうなところに少しの間言っているからお話していれば?
でも、話が終わったら読んでね?」
会話がひと段落付いたところでそう切り出すミユ。
「すごいね!なんでわかるんだい?」
見えていないのに!とでも言いたげな口調のユラ。
バカにしてるんじゃなくて、ただ単純に驚いたようだった。
「ふふ、ちょっとの勘と読みね」
にんまりと笑ってミユが答える。
「ありがとうミユ。
じゃあ少しだけ行っていてくれ。
でも、あまり遠くに行くなよ」
僕がそう言うと、
「えぇ、わかってる」
と言ってゆっくりと僕達から離れるようにミユは歩き始めた。
その背中を見て、ユラが話し始める。
「あの子を見て思い出した。
〝五感回復石〟というのを知っているかい?」
ユラはときどき人間に化けて人間の住むところへ行くので情報が集まりやすい。
常に森にいる僕よりはずっとたくさんの事を知っている。
「五感回復石...?知らないな。」
「それはな...どんな生物にも効く、素晴らしいものなんだそうだ。
味覚、聴覚、嗅覚、触覚、視覚。
全部で五種類あって、1人につき1回しか使えない。
それに、一度使ってしまえばたとえ失敗したとしてもほかの種類の石は使えなくなる。
それぞれの感覚が使えていない人がその石を持つと、途端に回復し、使えるようになるのだそうだ。...死人には使えないがな。」
〝五感回復石〟
今聞いたばかりの言葉を口の中で繰り返す。
それがあれば、ミユの視力は回復するのだろう。
「そりゃあいいな!
どこにあるんだ?」
気になった僕は、元気にユラに尋ねる。
「俺が聞いたのは運良く『視覚石』の場所だ。
聞いたのは随分前だからな、今そこにあるかどうか...
それでも行くか?」
「あぁ、探せるだけ探したい」
「わかった。
ここから随分遠くだ。ひと月以上はかかるだろう。その間ミユは俺が見てやる。だが、それをミユが了承するか、だ。」