大人の恋をしませんか?
「あーまぁ、ちらっとね。でもちゃんと誘われたわけじゃないし、誘われてもきっと断るかな」

「なんで!?技術の人間なら研究所で開発したいんじゃないのか?」

「そりゃ、ね。バリバリ開発して、それが新商品に採用されてーーっていうの夢見たこともあるけどさ。わたしにとって、あれは夢じゃなくてお伽話だからねー」

「どういうことだよ」

「だからさー、地方の私立大学出ただけの私には荷が重すぎるって事」

諦めたように言う私を見る飯塚は不服そうだけど、それが現実だ。

うちの商品開発の中心である本社の研究所には有名国立大の修士や博士を卒業した人間がウヨウヨいる。その地方ではちょっと名を知られてるって程度の私大を出ただけの私が太刀打ち出来るわけがない。そういう人間はちゃんとわきまえて、工場の技術棟で毎日試験データ集めてればいいのだ。

「なんだよ。俺、松森が研究所来るの楽しみにしてたのに」

「あんたね、私のこと買いかぶりすぎだから」

心底残念そうに言われてちょっと嬉しいけど、さ。
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