花歌う、君の空。

いきなり話し掛けるなんて、そんな勇気があればもうとっくの昔に実行に移してる。

そんな勇気があれば、同じ高校に通っていることを憂鬱に思ったり、あんなもどかしい想いをしながら彼を遠まきに見たりしない。

勇気なんてないから、こんな思いをしてるんだ。


「………ばかね」

自分の不甲斐なさに俯いた私に、梨奈はまた呆れ顔で溜息をつくと、静かに言った。


「自分だけだと思ってるみたいだけど、高梨湊だってすごく緊張してたんじゃないかな」


静かに諭すような口調にパッと顔を上げると、梨奈はいつになく優しい表情で笑っていた。



「高梨湊の手、震えてたもん」



……………えっ?……

湊くんが……………?



「ステージ慣れしてるはずの高梨湊があんなに緊張して声掛けてきたんだもん、それだけあんたのこと、適当じゃないってことでしょ?」


「…………適当じゃない…」


「だったらあんたも、それ相応の応えをするべきだと思うよ」


「応え…?」


「そう。あんまり深く考えないで、菜花の思ったこと、ありのままに伝えたらいいと思うよ」



私の………思ったこと…?

湊くんに声を掛けられて、びっくりした。
でも、それ以上に 私……


………嬉しかったんだ。


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