花歌う、君の空。
「あ、ほら菜花!噂をすれば!」
「──えっ?」
少しうわずった梨奈の声で ふっと我に返ると、いつの間にか校門の前まで来ていた。
急にハイテンションになった梨奈の指さす方向では、昇降口のすぐ横の花壇の辺りに、一年生であろう男女の生徒達が4、5人、たむろっていた。
その中で、一際目立つオーラを放っている男子生徒が、湊くんだ。
その姿を視界に捉えた瞬間、ドキリ、となんだか妙に胸が高鳴る。
こんな時だ。彼と同じ高校だと言うことを、少し憂鬱に感じるのは。
だって、届かない。
こんなに近くにいるのに、手を伸ばしても届かない。
別に 湊くんの彼女になりたいとか、友達になりたいとか、そんな大層なことを願ってるわけじゃない。
だけど……だけどこんな近くにいたら。
もしかしたら明日は目が合うかも、とか挨拶くらいならできるかも、なんて。
身の程知らずな期待をしてしまうから。
画面の向こうに居るだけの存在なら、こんな風には思わなかった。
勇気を出せば届くのかもしれない。だけどそんな勇気なんてないから。
ただただ、もどかしい。
「早く教室行こう、梨奈」
私は堪らずにその場を離れようと梨奈の手を引いて歩きだした。梨奈も訳が分からずに文句を言いながらも、私について歩き出す。
昇降口に入り直前に、ちらりと湊くんを見やる。
相変わらず友達と楽しそうに話していて、こっちに見向きする様子はない
…………はずだった。