花歌う、君の空。
今度こそ、幻なんかじゃなかった。
私の名前を呼ぶ、水を掻くような綺麗な、その声。いつもCDから聴こえる、その声。
────え…どうして………?
名前を呼ばれていることが信じられなくて、震える肩で振り返る。
駆け寄った勢いのまま膝に手をついて荒い息を整えると、彼はその瞳に私を映す。
「やっと見つけた……!」
端整な顔立ちを惜しげも無くくしゃりと歪めて、彼はそう笑った。
ほんの一瞬だけ、悲しげにも見えたそんな笑顔で。
「柊 菜花先輩…、ですよね…!?」
「……は………い…」
突然すぎる出来事に、思わず素っ頓狂な声を出す。
目の前の光景が、この状況が、うまく呑み込めない。
「あ……ごめんなさいイキナリ誰だよお前って感じですよね!えっと……俺、1年の高梨って言います」
──いやいや当然存じ上げてますとも!!
「あ、えっと……」
頭の中はこんがらがって、上手く言葉が出てこない。
しかし そんな私に構わず、湊くんの口からは容赦ない言葉が飛び出す。
「俺、入学式で菜花先輩を見掛けて、それからずっと話してみたくて探してたんです!」